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2013年07月03日

御戸代会神事薪能

7月1日 上賀茂神社で、御戸代会神事薪能が催されました。8-263.jpg

毎年、7月1日に行われているこの能は、奈良時代 孝謙天皇の御代(750年)に起源を持っている長い歴史のある行事であるそうです。8-262.jpg

第42回式年遷宮にあたり、重要文化財・細殿(ほそどの)のお屋根が無事 に葺き替えらた事を記念して、それまで庁ノ舎で行われていた能を、平成23年より細殿において、薪能として開催されるようになったそうです。過去2回は、賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)がお喜びのあまり、雨をお降らせになったそうですが、今年は大神も落ち着かれたご様子にて、絶好の天気となったとの、宮司さんのご挨拶でした。8-261.jpg
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神事という事で、最初の素謡は、神歌です。その後、仕舞「鶴亀」「羽衣」と進み、火入式。かがり火が両サイドに焚かれます。狂言「魚説教」のあと、能は「安達原」観世流です。(他の流派では、「黒塚」といいます)

熊野の山伏が東北の安達原で、宿を借ります。女主人は夜すがら、麻糸を糸繰り車で巻き取って紡ぎ、その侘しい暮らしぶりを嘆きます。そして、あまりに寒いので、山へ行って薪を採ってきましょうと言って出掛けようとしますが、留守の間、くれぐれも私の寝室をご覧にならないようにと念を押して出掛けます。覗くなと云われれば、よけい気になるもの。山伏の従者が、不審に思い、中を覗くとそこには、人間の死体が山と積み上げられています。山伏も驚き、これは鬼の棲家かと気付き、逃げ出します。これに気付いた鬼が追いかけてきて、恨みを言い、襲い掛かります。山伏たちはその法力で、必死に戦います。やがて、鬼は力を弱め、闇にまぎれて消え失せます。8-260.jpg

500人ぐらいの観客で、この季節にしては、着物姿が多いようです。私も安達原に合わせた装いにしてみました。8-265.jpg
単衣の小地谷紬に糸巻きを刺し子でデザインした帯、手持ちの般若の根付に金具を貼り付けて、帯留に作り替えました。8-264.jpg
鬘帯(女役の鬘の上から巻いて後ろで結び、長く垂らす帯)風の帯締めに通してみました。これで、気分だけは、シテ方です(^^)8-259.jpg

(写真右端のライトは上演中は点いていません。帰り道を照らすために終演後に点けられたものです。)
細殿の天井などに、明かりが灯されている他は、薪の明かりなどの中での上演とあって、次第にあたりも暗くなり、建物の柱も多いので、本当に山中の一軒家を見ているようです。
糸繰りをする年配の女性は、上からの光で、ますます頬がこけ、一層やつれた風に見えます。薪を採りにと橋掛かりまで進んだ後、静かにゆっくりと振り返ります。そこで、ためて、ためて、しっかりためて、すくっと、元に直り、立ち去ります。情念がどわ~と・・・といった感じで、妖しい気配が漂い、結構怖い瞬間です。

わき方の阿闍梨祐慶は、また原 大さんです。寝室を見たいという従者を諌め、早く微睡めと言って、自分も扇をかざして、微睡みます。8-258.jpg

逃げ出す山伏に気付いた鬼女が、打って変った姿で、揚幕からふいっと姿を現し、すぐ引っ込みます。そして、再び急ぎ出てきます。
「いかにあれなる客僧 止まれとこそ、」背に唐織を巻いた柴を背負っているのが、なにやら悲しくもあります。途中で立ち止まって、その柴をかなぐり捨て、舞台に入ります。打ち杖を振り上げて、襲い掛かる鬼女に、数珠を揉み続け、呪文を唱える山伏。激しい闘いが繰り広げられます。
(きゃー、原さん 頑張って~!)とは、私の内なる声です。決して口には出していません・・・。

やがて、弱り果てた鬼女はよろよろと、浅ましや、恥ずかしの我が姿やと、言う声だけはまだ凄しさを残しつつも、夜嵐の音に紛れて、消え失せたのでした。
でもって、鬼女が立ち去るところで、思わずよかったよかったと拍手したい気持ちに駆られるのですが、ここは、しばし我慢です。ちょっと気を静めてとお舞台に目を向けると、そこにはまだ鬼女が立ち去ったあとの余韻が、見送る山伏たちの姿があります。危うく難を逃れた山伏たちは、静かにその場を離れ、次の宿が見つかるものかどうか、闇の中、旅は続いてゆきます。 拍手、拍手。

鬼女は、閨を見られなかったならば、持ち帰った薪を焚いて、何事もなく、山伏たちを送り出したのか、それとも、閨を見るように仕向け、始めから捕って食う腹積もりだったのか?どんな人生を送って、終には鬼と化したのか?はたまた最初から鬼として生まれ、糸繰りなどして見せたのは、欺くための偽りなのか?くるくる回る糸繰り車は輪廻転生を現しているようであり、鬼女がまた人食いを繰り返す予兆のようでもあり。約束を破られる毎に、怒りと悲しみが繰り返し訪れ、どうにも制御できない感情を増幅させてゆくのか?姿を消した鬼女はまたしばらくすると、回復して、また糸繰りをし始めるのか?どんどん考え出すと止まらない感じです。

それにしても、高い木々に囲まれた境内の中、どんどん暗く背景が沈んでゆき、薄明りに浮かび上るお舞台は、幽玄そのものです。演目が演目だけに、能特有の少ない舞台設営にもかかわらず、リアリティがあり、脳裏に焼き付いた舞台となりました。

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